PCB廃棄物が漏洩してしまった場合、その原因と対応は重大です。管理不備や部品の老朽化による漏洩が主な要因ですが、漏洩が発覚したら迅速な安全確保と漏洩範囲の把握が不可欠です。適切な専門業者による漏洩物の処理と、関係機関への速やかな報告が必要です。また、漏洩物に触れた場合の応急処置も重要で、健康被害や環境汚染を最小限に抑えるために早急な行動が求められます。
目次
PCBの漏洩が発生する原因
PCB(ポリ塩化ビフェニル)は、健康被害や環境汚染にもつながるため、漏洩や紛失は防がなければなりません。本来であれば、漏洩や紛失しないよう適切に保管しなければなりませんが、漏洩や紛失する事案も度々発生しています。
◇PCBの漏洩事案
PCBの漏洩や紛失は意外と多く発生しており、平成20年度では35件、翌年の21年度・22年度には43件、平成23年度は10件の漏洩が確認されています。以下で過去に起きた事例をいくつか紹介します。
1件目は、抜油済みを含むコンデンサと絶縁油を保管していた事業所が、抜油済みと思っていたコンデンサから絶縁油120ℓを漏洩させてしまった事例です。この事例では、保管倉庫の外部の土壌からも絶縁油が検出されました。
2件目は、廃ビル解体中に什器がトランスに接触し損傷したことでPCB廃油が流出してしまった事例です。
3件目は濃度測定時に機器に小さな穴を開けてしまいガムテープで塞いで保管していました。処分する際、この小さな穴から漏洩させてしまいウエスで拭き取ったため、ウエスが汚染物として処理されたといった事例です。
このように、管理の甘さだけでなく、うっかりミスや勘違いによる漏洩も多くみられます。
◇漏洩の発生原因
安定器でPCBの漏洩が発生する主な原因は、長期間の使用による部品の劣化です。特に、PCBを含む油が使用されているコンデンサが劣化し、膨張や変形を起こすことがあります。この劣化が進むと、油が漏れ出す可能性があります。
また、夏期など温度が高いと運搬時の容器内部の圧力が上昇し、漏洩が発生することがあります。さらに、一部の箇所を補修した際に、他の部位が圧力に耐えきれず漏洩することや、対象物の老朽化により、通常は漏れない揺れでも漏洩が生じることがあります。
このように、安定器の漏洩は部品の老朽化や運搬時の条件によって引き起こされる場合が多く、定期的な点検と適切なメンテナンスが重要です。早期発見と適切な対応が、健康被害や環境汚染のリスクを軽減する鍵となります。
過去に起きたPCB漏洩事例について

画像出典:フォトAC
PCBが含有している油の漏洩や紛失は、決して昔のことのように思う方もいるかもしれません。しかしPCBの漏洩・紛失事故は近年でも発生している事案です。ここからは約10年前に発生した事例と最近発生したばかりの事例をご紹介します。
◇廃変圧器から低濃度のPCBを含む油の漏洩
過去に起きたPCB漏洩の事例では、廃変圧器からPCBが含有している油が漏洩しているのが発見されました。この事例は、流出防止トレイを設けていましたが排出用コックが緩んでいたのが原因です。
保管倉庫外への流出は漏洩箇所から約1.5mほどの限定された範囲内だったため、汚染土壌の回収・処理で済んでいます。
◇変圧器の破損により漏洩した事例
変圧器の破損により漏洩した事例は、令和6年3月に学校内の受変電設備更新工事中に発生しました。受注者が変圧器を取り外し移動させた際に破損させてしまい、低濃度PCB含有の絶縁油が漏洩した事例です。
この事例では電気室や室外のコンクリート部分が汚損しましたが、破損個所を同日中にパテで塞いだ後アルミテープを貼り保管庫へ移動しています。その2日後には油が漏れでないようトレイの設置を行い後日、絶縁油を検査機関へ送付した結果、低濃度PCBが含有しているのが判明しました。
さらに、応急処置を施した箇所から再度漏洩が発生したため、現在は汚損拡大防止措置としてブルーシートなどによる養生・立ち入り禁止などの措置が取られています。
PCBが床に付着したら?床や土壌の処理も必要となるケースがある
PCBが含有している絶縁油などを漏洩させてしまった場合、焦らずに適切な措置をとるのが重要です。措置方法や注意点をしっかり押さえて安全に対処しましょう。
◇PCBが床に付着した場合の対応
床にPCBが付着した場合は、シンナー油などを含ませたウエストで拭き取る方法と汚染された床材を除去して汚染物として保管しておく方法があります。ただし、床材が金属など付着しづらい素材であれば拭き取りが可能ですが、アスファルトなどに付着した場合は拭き取りだけでは除去できません。
◇PCBの土壌汚染の可能性がある場合
コンクリートやアスファルトにPCBが染み込んでしまった場合は、まず自治体への報告が必要です。自治体によっても措置が異なりますが、ほとんどの場合は付着した箇所の除去や洗浄などの措置が取られます。
また、PCBが染み込んでいるコンクリートなどは産業廃棄物として処分せずPCB汚染物として厳重に保管する必要があります。詳しくは自治体などにお問い合わせするのがおすすめです。
漏洩が発覚した場合に取るべき行動
PCBが万が一漏洩した場合、周辺環境の汚染だけでなく人体に付着した場合は健康被害を及ぼす可能性もあります。また、PCB含有の油が漏れ出た場合は、慌てず適切な措置を取り、報告も忘れずにしましょう。
◇すぐに行うべき行動
PCBが漏洩した場合、まず先に付近にいる人を退避させるのが重要です。その後、拡散した範囲・漏れ出た量を確認し換気を行って安全を確保した上で除去を行ってください。除去作業を行う際はゴム手袋・メガネやゴーグル・マスクなど防備してから行うのが大切です。
◇触れてしまった場合の対処法
顔や体にPCBが付着してしまった場合は、オリーブオイルなどの植物油で軽く拭き取り、石けんでよく洗いましょう。また万が一、口に入った場合はうがいを繰り返し行い、目に入った場合は洗浄水で15分以上洗眼し3%のホウ酸水で洗眼するといった応急処置を行います。応急処置をしたからといって放置せず、必ず医療機関へ受診して処置を受けましょう。
◇漏洩発覚時の報告について
漏洩した場合は、状況に応じて消防署・警察署・安全管理責任者などへ報告しなければなりません。緊急連絡先としては、環境部局・河川管理者・保健所・自治体などへの連絡も有効です。万が一の事故に備えて連絡先についてもマニュアルに記載しておくと、事故発生時でもスムーズに対応できます。
PCB(ポリ塩化ビフェニル)の漏洩は健康被害や環境汚染のリスクを伴う重大な問題です。過去の事例からは、保管の甘さや運搬中の事故、部品の老朽化による漏洩が多いことが分かります。例えば、コンデンサからの絶縁油漏洩や、変圧器の破損による漏洩事故が挙げられます。
PCBが含まれた油が環境中に漏れ出すと、土壌や地下水の汚染につながり、放置すると長期的な影響が及ぶ恐れがあります。漏洩が発生した場合、迅速で正確な対応が求められます。事故現場ではまず、周囲の安全確保と漏洩範囲の把握が重要です。
専門業者による漏洩物の除去と、漏洩が起きた事実を関係機関に適切に報告することが、被害を最小限に抑えるための鍵となります。PCB漏洩事故の影響を最小限に抑えるためには、組織全体での意識向上と迅速な対応が不可欠です。